この記事の案内人・編集長
稲垣 瑞稀
福岡市の保育園内解体作業中に体調不良を訴えた作業員3名が、搬送先の病院で「一酸化炭素中毒」と診断されました。
解体工事といえば騒音や粉塵が気になりがちですが、実は「目に見えないガス」の危険とも隣り合わせです。今回の事故は、屋内でのエンジン発電機の使用と換気不足という、安全管理の基本が守られなかったことで発生したと考えられます。
この記事では、なぜ解体現場でこのような一酸化炭素中毒事故が起きてしまうのか、その背景と防ぐための対策を解体工事の専門家の視点から分かりやすく解説します。
- 福岡市の保育園で起きた一酸化炭素(CO)中毒事故の詳しい内容
- 解体現場で一酸化炭素中毒事故が起きた原因の推測
- 過去に起きた解体現場での一酸化炭素中毒事故
- 業者が取り組むべき再発防止策
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ニュースの概要
- 発生日時:2026年4月23日午前9時50分ごろ
- 発生場所:福岡市中央区長浜の複合施設(1階保育園部分の工事現場)
- 原因機器:ガソリンエンジン発電機
- 搬送者(作業員3名):一酸化炭素中毒(軽症)と診断
- 搬送者(園児4名): 頭痛や喉の痛みを訴え搬送。診断の結果「異常なし」
- 避難状況:当時在園していた園児115名全員が隣接する建物へ緊急避難
福岡市の保育園が入る建物で23日午前、工事中に体調不良を訴えて病院に運ばれた作業員3人は一酸化炭素中毒だったことがわかりました。
当時、発電機を使った作業をしていて、市は換気が不十分だったとみています。
(中略)
作業員3人は軽症の一酸化炭素(CO)中毒と診断され、園児4人に異常はありませんでした。
引用:救急搬送された作業員3人はCO中毒 屋内で発電機使い換気不十分か 保育園で解体作業の工事中 避難の園児4人も病院受診 福岡|テレビ西日本
搬送された全員の命に別条はないとのことです。報道によれば、現場は突然の事態でパニック状態となり、恐怖から泣き叫んだり、靴を履く間もなく裸足のまま逃げ出したりする園児たちを、保育士が抱きかかえて誘導する状況でした。
運営者 稲垣稼働中の施設における事故であり、一歩間違えれば、群衆雪崩や転倒などの二次災害リスクを伴う事案でした。
なぜ解体現場で一酸化炭素中毒が起きたのか?
今回、事故の原因となった一酸化炭素は、工事で使用していたガソリンエンジンの発電機から発生したと報道されています。
このことから、以下4つの原因を推測しました。
1.「慣れ」と「知識不足」による安全意識の低下
エンジン付きの工具や発電機が一酸化炭素を発生させることは、プロであれば当然知っているべき知識です。しかし、「少しの時間だから大丈夫」「今までもこうやってきた」といった過信が、換気という基本的な安全対策を省略させてしまいます。特に、経験の浅い作業員への教育が不十分な場合や、現場監督のチェック体制が甘い場合に、こうした事故が起きやすくなります。
2.手軽に使えるエンジン発電機
解体工事では、建物の電気が止められ電源を確保できないケースがよくあります。そのため、手軽な「エンジン発電機」が多用されがちです。
本来、密集地や地下室など換気が難しい現場では、バッテリー式のポータブル電源の導入や仮設電源の申請といった代替案も検討すべきですが、費用や手間を惜しんで安易な方法を選んでしまう業者がいるのも事実です。
3.周辺への配慮が招いた作業空間の「密閉化」
解体工事に伴う騒音や粉塵の外部への漏洩を防ぐため、今回の現場は防音シートや養生シートによって「ほぼ密閉状態」に保たれていたと報じられています。
作業中にガソリンエンジンの発電機から排気ガスが発生して室内に充満。騒音や粉じん対策のためほぼ密閉状態で行っており、集じん機で強制換気していたが、不十分だったことが原因とみられる。
引用:保育園の工事で作業員3人が一酸化炭素中毒 園児4人も病院へ搬送|朝日新聞
運営者 稲垣周辺環境の保護や近隣からのクレーム防止を優先するあまり、作業空間を密閉して自然換気能力を低下させ、結果として内部の空気環境を悪化させてしまった可能性があります。
4.「空気の流れ」に対する誤解
初期調査によれば、現場の換気対策として「床から約80センチの高さにある窓2箇所を開け」「集塵機(ほこりを吸い取る機械)1台を動かしていた」ことが確認されています。しかし、空気の流れを考えると、この対策では不十分でした。
- 集塵機のパワー不足:集塵機はほこりを集めるための機械であり、発電機から出続ける排気ガスを部屋全体から外へ押し出すほどの風量はありません。
- 一酸化炭素の特性:一酸化炭素は空気とほぼ同じ重さです。床付近の窓を開けただけでは自然な空気の入れ替えは起きず、ガスは部屋全体に均等に広がり、とどまり続けます。
過去に起きた解体工事中の一酸化炭素中毒事故
以下は、今回のニュースと同様、解体工事中に起きた「ガソリンエンジンの排気ガスによる一酸化炭素中毒事故」の事例です。
本災害は、RC造4階建ての建物を解体する工事現場において、被災者2名が天井部分に貼られた断熱材を剥がす作業中に発生した。
引用:建物の解体現場にて天井部分の剥がし作業中、一酸化炭素中毒となる|厚生労働省
被災者は、当日の朝からガソリン式高圧洗浄機を使用して4階天井部分の断熱材を剥がす作業を行っていた。その際、高圧洗浄機は作業場所に隣接した廊下に設置され、排気ガスは廊下で排出されており、排気口は作業場所に向けられた。
2024年3月20日、福井県池田町の解体工事現場で発生した、エンジンの排気ガスによる一酸化炭素中毒。解体作業をしていた技能者3名が倒れているのが見つかり、病院へ運ばれたがこのうち1名は死亡が確認され、2名は搬送後には会話ができる状態まで回復したとのこと。
引用:福井県池田町の解体工事現場で一酸化炭素中毒|セーフグラフィ
現場建屋内に発電機を2台設置し、稼働させながら解体工事における外壁材除去作業中、発電機から発生する排気ガスにより一酸化炭素中毒になった。
引用:職種:解体工事業 傷病名:一酸化炭素中毒|西日本労災一人親方部会
運営者 稲垣過去の事例を見てわかるように「排気口の向きを考えていなかった」「適切な換気処置を行っていなかった」など、排気ガスを正しく排出できなかったことが原因で、同じような事故が繰り返されています。
今後の安全管理と再発防止策
エンジン式から電動機器への切り替え
安全対策の基本は、危険の原因そのものを現場からなくすことです。
風通しの悪い屋内や、騒音対策で意図的に密閉した環境では、ガソリンや軽油で動くエンジン式機器(発電機や高圧洗浄機など)の使用は原則として避けるべきです。
近年はバッテリー技術が向上し、大型の機械でも十分なパワーを持つ「電動工具」が普及しています。外部の電源からコードで電気を引くか、バッテリー式の機器へ切り替えることが、安全を確保するための第一歩です。
CO濃度測定器の義務化
CO濃度測定器とは、空気中の有毒な一酸化炭素(CO)濃度を「ppm」単位で測定・表示し、酸欠や中毒事故を防止する機器のことです。
労働安全衛生法では、トンネル内など特定の閉所作業での酸素欠乏症等を防ぐための対策は義務付けられていますが、一般的な解体現場におけるCO濃度測定器の常時携帯などは、現状義務化されていません。
出典:労働安全衛生法
第二十二条 事業者は、次の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。
引用:労働安全衛生法|e-Gov 法令検索
一 原材料、ガス、蒸気、粉じん、酸素欠乏空気、病原体等による健康障害
二 放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧等による健康障害
三 計器監視、精密工作等の作業による健康障害
四 排気、排液又は残さい物による健康障害
運営者 稲垣今回のような事故を防ぐには、作業員一人ひとりが危険を可視化できる環境が必要です。今後は業界の自主基準としてでも、屋内作業時のCO濃度測定器の携帯を標準化していくべきでしょう。
まとめ
今回は福岡市の解体現場で起きた一酸化炭素中毒のニュースを解説しました。
解体現場での一酸化炭素中毒事故は、周辺環境への配慮による「密閉化」と、不十分な換気が重なって発生します。
解体中の作業員や近隣住民の命を守ることは、業者が最優先で取り組むべき課題です。電動機器への切り替えや、正しい換気・監視体制の導入など、安全管理の徹底が求められます。
