この記事の案内人・編集長
稲垣 瑞稀
2026年5月14日、広島県呉市音戸町の船舶解体現場で、廃船や廃材から出火する大規模火災が発生しました。
船舶解体現場は、ガス切断による「火花」とFRP(繊維強化プラスチック)など船の素材に使われる「可燃物」が共存するため、一般的な解体工事以上に火災リスクが高い環境です。
本記事では、今回の大規模火災に発展した要因や危険性を考察し、今後の解体業界に求められる安全・環境対策を専門的な視点からわかりやすく解説します。
- 広島県呉市の船舶解体現場で発生した火災事故の概要
- ガス切断時の火花や廃材の無炎燃焼など、現場特有の出火要因
- FRP(繊維強化プラスチック)や残存ガスによる爆発・黒煙発生のリスク
- ドライドック方式など、今後の解体工事に求められる安全対策
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ニュースの概要
- 発生場所:広島県呉市音戸町渡子
- 報道日:2026年5月14日
- 発生現場:「中本船舶工業」
- 事案:船の解体現場で、廃船や山積みにされた廃材から出火する火災が発生しました。
※2026.05.14(木) 14:35時点での情報です。
14日、呉市音戸町で廃船や廃材が燃える火事があり消火活動が続いています。
午後0時50分ごろ呉市音戸町渡子で「大量の黒煙が見える」と付近の住民から通報がありました。
消防によりますと現場は船舶の解体工事現場で、廃船や廃材が燃えているということです。
けが人は現時点で確認されていません。
現在消防車11台などが出動し消火活動にあたっています。
引用:黒煙あがる 船解体工事現場で火事 広島・呉市音戸町|広島ホームテレビ
以下は、火災発生の翌日15日の続報です。
広島県呉市音戸町渡子の廃船解体現場で14日に発生した火災は、発生から21時間余りたった15日午前10時現在も廃船などから煙が上がっており、鎮火の目処は立っていない。
引用:【続報・火事】呉の廃船解体現場の火災 発生21時間後も煙 鎮火の目処立たず|中国新聞
なぜ大規模な火災に発展したのか?
ニュースを見ると、大きな炎と空を覆うような黒煙が上がっていました。「なぜ海沿いの現場であれほどの大規模火災になったのか?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
船舶解体という特殊な工事という点を踏まえて、原因を推察しました。
ガス切断による火花の発生
船舶解体で鉄板などを切断する「ガス切断」は、数千度の火花が広範囲に飛散するため、火災リスクが伴います。出火や延焼の主な原因は以下の2点です。
- 事前の清掃・可燃物の除去不足:船内の残存油分やウレタン等の断熱材、周囲に積まれた廃材に火花が引火した。
- 火気防止体制の不備:散水や防炎シートによる火花の遮断、消火設備の準備、火気監視員の配置などが不十分で小さな火種が広範囲へ燃え移った。
解体業者には、作業前に可燃物を徹底的に排除・隔離し、万全の火気管理体制を敷く責任が課せられています。
出典:労働安全衛生規則
(危険物等がある場所における火気等の使用禁止)
引用:労働安全衛生規則|e-Gov法令検索
第二百七十九条 事業者は、危険物以外の可燃性の粉じん、火薬類、多量の易燃性の物又は危険物が存在して爆発又は火災が生ずるおそれのある場所においては、火花若しくはアークを発し、若しくは高温となつて点火源となるおそれのある機械等又は火気を使用してはならない。
2 前項の場所において作業に従事する者は、当該場所においては、同項の点火源となるおそれのある機械等又は火気を使用してはならない。
作業中ではなく「廃材からの発火」の可能性
ガス切断などの作業中に今回のような火災や爆発が起きれば、作業員が負傷するリスクが高くなります。報道では「けが人はいない」とされていることから、出火当時は作業員が火元から離れていた可能性があります。
実際、消防への通報があった午後0時48分頃は、「お昼休憩」の可能性もあり、作業中ではなく作業員が離れた隙に「廃船や廃材から発火した」ことも考えられます。
- 午前中の作業による火種の燻り(無炎燃焼)
午前中の解体作業で飛散した火花が廃材の粉塵や船内の油分に着火。炎を出さずに内部で燻り続け、無人になったタイミングで発火・延焼した。 - 廃材の分別・保管不足
取り外したバッテリーのショートや、可燃性ガスが残った容器などが廃材に混入しており、そこから発火した可能性。
運営者 稲垣火災リスクのある現場では、作業中の火気管理だけでなく、火花が内部でくすぶるリスクを想定した対策が必要です。現場を離れる前の十分な散水や終業時の入念な巡視など、後の発火を見逃さないための安全対策が求められます。
作業用ボンベと残存ガスによる爆発音
報道の映像や近隣住民の証言の中で、黒煙とともに「パーン」という破裂音や、複数回の大きな爆発音が確認されています。船舶解体現場という特殊な環境下では、主に以下の3つの原因が考えられます。
- 解体作業用ガスボンベの引火・破裂
船舶の金属部分を切断する際、「ガス切断機」を使用します。現場にはアセチレンガスや酸素などの高圧ガスボンベが多数置かれていることが多く、これらが火災の熱で熱せられ、限界を超えて破裂(爆発)した可能性があります。 - 船内に残存していた燃料や気化ガスの引火
船の燃料タンクや配管内に残っていた油(重油や軽油など)が、火災の熱によって気化し、可燃性ガスとなって充満。そこに引火することで爆発を引き起こすケースです。 - 密閉された空間・容器の熱膨張
塗料の空き缶やドラム缶、あるいは船体内部の密閉された区画が火災によって急激に加熱されると、内部の空気が膨張し、逃げ場を失って破裂する場合があります。
作業前には「可燃性ガスの完全な排出」や「危険物・高圧ボンベの安全な保管と隔離」を徹底しなければなりません。爆発音が複数回鳴ったという事実は、現場の危険物管理体制に不備があった可能性も考えられます。
黒煙の原因と考えられる「FRP(繊維強化プラスチック)」
ニュースで目を引いた大量の黒煙。この原因は、小型・中型船舶の船体によく使われる「FRP(繊維強化プラスチック)」と推測されます。FRPの燃焼特性とリスクは以下です。
- 高い燃焼カロリー:FRPはガラス繊維とプラスチック樹脂で構成されており、一度火がつくと高温で燃え続けます。
- 消火の困難さ:水をかけても内部の温度が下がりにくく、樹脂が溶け出しながら燃え広がるため、鎮火までに長時間を要します。
- 黒煙の発生:不完全燃焼により大量の黒煙(スス)を発生させるリスクがあります。
FRP 製プレジャーボートが博多港内において火災となり,消火作業中に注水した海水で浮力を失い沈没しました。同日海底から引き揚げ回航し,陸揚げしていましたが,引き揚げから約 6時間後に再燃するという事例が発生しました。
引用:消火により沈没したプレジャーボートが引き揚げ後,再燃した事例について|一般財団法人消防防災科学センター
排出事業者自らの手で FRP 船や木船の中間処理(解体・破砕・焼却)を行う場合、漁港域や海浜で安易に行われる場合が多く、残存油脂の流出や有害ガスや煙、粉じんの発生が見られる。したがって、これらの処理を適正に行える処理施設を有しない排出事業者は自ら処理を行わず、専門の処理業者に委託すること。
引用:漁業系廃棄物処理ガイドライン(改訂)|環境省
運営者 稲垣FRP船の解体は、一般的な木造家屋の解体以上に火災発生時のリスクが高く、より厳格な安全対策が求められる作業といえます。
廃棄物処理の管理不足
船舶解体現場は、ガス切断による「点火源」と、「可燃物」が共存するため、一般的な解体以上に火災の要素が揃いやすい環境です。
特に、小型船などに多用されるFRP(繊維強化プラスチック)の廃材や、船内の断熱材(ウレタン等)、油分を含んだ木くずなどは燃えやすい性質を持っています。
分別や搬出が追いつかず敷地内に放置されていた場合、火がついた際に燃え広がる火種となり得ます。
シップ・リサイクル法と安全管理義務
船舶解体における安全と環境保全を定めた法律として、「船舶の再資源化解体の適正な実施に関する法律(シップ・リサイクル法)」があります。
この法律の対象は、主に総トン数500トン以上の大型船ですが、根底にある「労働安全の確保」と「環境保全」の精神は、プレジャーボートや漁船といった小型・中型船の解体にも共通するルールです。具体的には以下の義務が定められています。
- 事前の有害物質・燃料の把握(第3条:有害物質一覧表の作成及び確認)
船内に残る燃料油や潤滑油、アスベストなどの有害物質が「どこに・どれくらい」あるかを正確に把握し、一覧表を作成することが義務付けられています。解体前にはこれらを安全に抜き取ることが前提となります。 - 適切な解体計画の策定(第18条:再資源化解体計画の承認)
解体業者に対し、どこで、どのように切断し、発生した廃棄物をどう処理するか、作業員の安全確保などを定めた「再資源化解体計画」を作成し、国(主務大臣)の承認を受けることを義務付けています。
今回の火災において、もし残存燃料や可燃物への引火が原因であったとすれば、事前の抜き取りや分別といった「基本のルール」が遵守されていなかった可能性もあります。
出典:船舶の再資源化解体の適正な実施に関する法律
(有害物質一覧表の作成及び確認)
第三条 特別特定日本船舶の船舶所有者(当該船舶が共有されている場合にあっては船舶管理人、当該船舶が貸し渡されている場合にあっては船舶借入人。第四章(第二十二条(第二十五条第二項及び第七項において準用する場合を含む。)を除く。)を除き、以下同じ。)は、次の各号のいずれかに該当するときは、有害物質一覧表を作成し、次項の規定に適合することについて、国土交通大臣の確認を受けなければならない。
一 特別特定日本船舶を初めて日本国領海等以外の水域において航行の用に供しようとするとき。
二 特別特定日本船舶について有害物質の種類又は量を変更させるものとして国土交通省令で定める改造又は修理を行ったとき。
三 次条第一項の有害物質一覧表確認証書の交付を受けた特別特定日本船舶をその有効期間満了後も日本国領海等以外の水域において航行の用に供しようとするとき。(再資源化解体計画の承認)
引用:船舶の再資源化解体の適正な実施に関する法律|e-Gov 法令検索
第十八条 再資源化解体業者は、特定船舶について、再資源化解体のための譲受け若しくは引受け又は再資源化解体の受託(以下「譲受け等」という。)をしようとするときは、あらかじめ、前条の規定により提供を受けた有害物質等情報(当該特定船舶が特定外国船舶である場合にあっては、当該特定船舶の船舶所有者から提供を受けた有害物質等情報。第三項において同じ。)に基づき、当該特定船舶の再資源化解体に関する計画(以下「再資源化解体計画」という。)を作成し、主務大臣の承認を受けなければならない。
再発防止に向けたこれからの船舶解体
従来、日本での船舶解体は、海や川に面した岸壁や斜路で行う「水際(みぎわ)解体」が多く採用されています。しかし、この手法は今回のような火災時に海への油流出リスクや、付近の住宅への延焼被害が懸念されます。
今後求められるのは、より安全で環境負荷の少ない解体工法です。
- ドライドック方式の推進
水を抜いた乾ドック内で解体を行う方式です。油や有害物質の海への流出を完全に防ぎ、周囲への延焼リスクも物理的な壁で遮断できます。 - 陸上ヤードでの屋内解体
一定サイズ以下の船舶(FRP船など)であれば、陸上に引き揚げ、防音・防炎・環境対策が施された専用の屋内施設で解体を行う対策があります。
これらの実現には設備投資や運搬コストがかかりますが、安全な解体工事の実現と地域環境を守るためには必要不可欠な施策です。
運営者 稲垣ドライドックや屋内ヤード解体の強みは、火災時の延焼や汚染物質の流出を封じ込められる点にあります。現在、国内のドックは船の製造や修理が優先され、解体用の場所確保が難しい事情もありますが、防災と環境保護の観点から、安全な専用施設への移行が推奨されます。
まとめ
今回は、広島県呉市で発生した船舶解体現場の火災について深掘りしました。火災が大規模化・長期化した背景には、以下の要因が考えられます。
- ガス切断時の火花による引火と、事前の可燃物除去および火気管理の不足
- 作業後の無炎燃焼(内部での燻り)や、廃材の分別不足による発火
- 船内の残存燃料や作業用ガスボンベの熱膨張による爆発の危険性
- FRP(繊維強化プラスチック)の燃焼に伴う消火の長期化と有害な黒煙の発生
解体現場における火災の多くは、可燃物の管理不足や火気防止体制の不備によって発生します。事故を防ぎ周辺環境を守るためには、事前の危険物・有害物質の除去を徹底し、安全性の高い解体工法を推進していく必要があります。

