この記事の案内人・編集長
稲垣 瑞稀
- 青森市で緊急代執行が実施された背景と経緯
- 緊急代執行の制度と通常代執行との違い
- 積雪地域において空き家の倒壊リスクが高まる原因
青森市は2026年2月、雪の重みで一部崩落し倒壊の危険が高まった空き家に対し、「緊急代執行」による解体を実施しました。
今回のように積雪地域では、所有者の管理状況によっては行政が安全確保のため緊急で空き家を撤去する可能性があります。
本記事では、なぜ緊急代執行が行われたのか、その法的仕組みや通常の代執行との違い、さらに雪による空き家倒壊のリスクについて、解体の専門的な視点からわかりやすく解説します。
解体費用、たった30秒でわかります
個人情報の入力不要。建物の種類と場所を選ぶだけで、概算費用をその場で表示します。
※ 概算は目安です。正確な金額は現地調査による見積もりが必要です
ニュースの概要
- 発生場所:青森県青森市茶屋町
- 報道日:2026年2月16日
- 対象:築50年の木造2階建て一軒家
- 事案:青森市が積雪で倒壊の恐れある空き家を緊急代執行で解体。雪で一部崩落し、市内初の措置となった。
青森市は16日、積雪により倒壊の危険性が迫っていて隣家や周辺道路に被害を及ぼす可能性があるとして、空き家対策特別措置法(空き家法)に基づく緊急代執行で同市茶屋町の空き家の解体作業を始めた。同市で緊急代執行が実施されるのは初めて。
緊急代執行になった背景

緊急代執行になった最大の要因は、記録的な豪雪により建物の倒壊リスクが差し迫り、放置できない危険な状態に至ったことです。
- 長期間の放置と所有者の未対応
対象の青森市茶屋町の木造2階建て住宅(築50年)は、2013年10月に空き家と確認され、2022年3月に倒壊の恐れがある「特定空家」に認定されました。市は所有者に複数回の勧告を行いましたが、改善は行われませんでした。 - 記録的豪雪による建物の崩落
2026年2月上旬、青森市では平年の2倍を超える180センチ以上の積雪を記録しました。この影響で、2月15日から16日朝にかけて空き家の2階部分が雪の重みで一部崩落。屋根の陥没や窓枠の脱落、建材や家具が道路や雪上に散乱するなど、危険な状態となりました。 - 緊急対応が必要な状況
現場は市街地にあり、隣家との距離は約2メートルしかありませんでした。通常の手続きを進める間に倒壊すれば、近隣住民や通行人に被害が及ぶ恐れがあるため、市は緊急代執行を決断しました。
緊急代執行とは
緊急代執行とは、空き家の倒壊などにより、人の生命や身体に危害が及ぶ危険が切迫している場合に、行政が通常の手続きを省略し、強制的に解体や修繕を行う措置です。
これは、「空家等対策の推進に関する特別措置法」(空き家法)第22条第11項に基づき認められた権限であり、災害時など緊急性が極めて高い場合に限り実施されます。所有者の財産に直接介入するため、行政が行使できる措置の中でもとくに強力なものです。
出典:空家等対策の推進に関する特別措置法
第二十二条 11 市町村長は、災害その他非常の場合において、特定空家等が保安上著しく危険な状態にある等当該特定空家等に関し緊急に除却、修繕、立木竹の伐採その他周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置をとる必要があると認めるときで、第三項から第八項までの規定により当該措置をとることを命ずるいとまがないときは、これらの規定にかかわらず、当該特定空家等に係る命令対象者の負担において、その措置を自ら行い、又は措置実施者に行わせることができる。
【比較表】緊急代執行と行政代執行の違い
通常の代執行は、所有者の権利を保護するため段階的な手続きを経て実施されます。一方、緊急代執行は倒壊などの危険が目前に迫っている場合に、これらの手続きを省略して迅速に実行されます。
| 項目 | 行政代執行 | 緊急代執行 |
|---|---|---|
| 法的根拠 | 空き家法 第22条第9項など | 空き家法 第22条第11項 |
| 実施条件 | 命令に従わない場合 | 災害時など危険が切迫し、手続きの時間がない場合 |
| 事前手続き | 助言・指導→勧告→命令→戒告→代執行 | 原則、省略可能 |
| 所有者の弁明機会 | 必ず与えられる | 与えられない場合がある |
| 実行までの期間 | 数ヶ月~数年 | 即日~数日 |
| 主な目的 | 所有者に改善を促したうえで是正 | 人命・安全確保を最優先 |
| 実施の緊急性 | 低~中 | 非常に高い |
出典:空家等対策の推進に関する特別措置法
第二十二条 9 市町村長は、第三項の規定により必要な措置を命じた場合において、その措置を命ぜられた者がその措置を履行しないとき、履行しても十分でないとき又は履行しても同項の期限までに完了する見込みがないときは、行政代執行法(昭和二十三年法律第四十三号)の定めるところに従い、自ら義務者のなすべき行為をし、又は第三者をしてこれをさせることができる。
通常の代執行の流れ:調査・認定→助言・指導→勧告→命令→戒告→代執行(解体)
緊急代執行の流れ:危険が切迫→手続きを省略→即時代執行(解体)
緊急代執行の3つのポイント
1.手続きの省略が認められる
通常、行政が建物を解体するには、事前に命令を出し、所有者に弁明の機会を与える必要があります。しかし、「通常の手続きをしている間に倒壊する恐れがある」と判断される場合には、これらの手続きを省略して直ちに危険除去を行えます。
2.令和5年の法改正で手続きが明確化
従来は適用基準が不明確でしたが、2023年12月施行の法改正により、緊急代執行の要件と手続きが明文化されました。これにより、倒壊などの危険が切迫している場合、行政は所有者の対応を待たずに安全確保を優先できるようになりました。
3.解体費用は所有者が負担するのが原則
行政が解体を実施した場合でも、その費用は、法律に基づき所有者へ請求されます。今回のケースでは雪害対応も含まれるため、所有者への請求額は通常よりも高額になることが予想されます。
ただし、以下の場合には費用を回収できず、最終的に自治体の負担(税金)となる場合もあります。
- 所有者に支払い能力がない
- 相続未登記などで所有者が不明
- 連絡が取れない
運営者 稲垣そのため、緊急代執行は公共の安全を守るための措置である一方、自治体にとっても財政的負担を伴う判断となります。
雪による空き家の被害
積雪地域の空き家は、老朽化に加え雪の重みによる倒壊リスクが高まります。
ここでは、積雪荷重の大きさや倒壊しやすい理由、周囲への被害リスクについて解説します。
- 積雪荷重の大きさ
積雪は時間の経過とともに密度が増し、1立方メートルあたり300kg〜500kgの「締まり雪」になります。屋根面積約50平方メートルの木造住宅に1.5メートルの雪が積もると、総重量は約22.5トン(普通乗用車15台分以上)に達すると試算されています。 - 空き家はとくに倒壊リスクが高い
空き家は暖房による融雪がなく、雪下ろしも行われないため、雪の荷重が蓄積しやすくなります。本件の空き家も、この荷重に耐えきれず、屋根や2階部分の崩落に至りました。 - 地域全体への被害拡大の危険性
今回の豪雪では、青森県内で2月13日時点の死者は8人、負傷者は199人に上っています。空き家の倒壊は、道路の閉塞や避難経路の遮断を招き、災害時の被害をさらに拡大させる要因となります。
雪による住家被害の件数と事例
令和6年11月1日から令和7年4月30日までの冬季期間中、雪の影響により全国で多くの住宅被害が報告されています。被害は「全壊」「半壊」「一部破損」に区分され、合計446件にのぼりました。
▼令和6年度冬季(11月~4月)の雪害による住宅被害件数
| 被害区分 | 件数 |
|---|---|
| 全壊 | 8件 |
| 半壊 | 23件 |
| 一部破損 | 415件 |
| 合計 | 446件 |
このように、雪による住宅被害は一部破損にとどまらず、倒壊などの深刻な被害も毎年発生しています。
実際に、雪の重みによって住宅が倒壊し、居住者が巻き込まれる事故も起きています。たとえば、次のような事例があります。
13日午前8時過ぎ、十日町市新宮甲の男性の住宅が倒壊し、中から救助を求める声が聞こえると、近所の住民から消防に通報があった。がれきの下でうつぶせになっていた男性を消防が救出、十日町市内の病院に搬送した。十日町署によると、右足などを負傷しているが意識はあり、命に別条はないという。
運営者 稲垣積雪地域の空き家は、老朽化と積雪荷重の複合要因で倒壊リスクが急増します。融雪機能のない空き家は限界を超えやすいです。家の倒壊は道路閉塞など二次被害を招きかねないため、所有者は被害が出る前に早期解体へ踏み切るべきです。
まとめ
今回のケースで緊急代執行が行われたことから、放置された空き家が危険な状態になると、行政が安全確保のために解体などの対応を取る場合があることが分かります。
とくに積雪地域では、冬になると雪の重みによって倒壊リスクが高まります。遠方にあるなどの理由で管理が行き届かない場合でも、建物の状態によっては周囲へ被害を及ぼすおそれがあります。
空き家を所有している方は、定期的に状況を確認し、必要に応じて修繕や解体を検討することが重要です。自治体の補助金制度や相談窓口を活用し、早めに対応しましょう。
空き家の補助金制度については、別の記事でも詳しく解説しています。あわせてご覧になってください。

