この記事の案内人・編集長
稲垣 瑞稀
2026年8月、鳥取県米子市の解体現場で、作業員の男性が熱中症で亡くなる事故が発生しました。この事故を受け、労働基準監督署は9月7日、元請けと下請けの解体業者2社を労働安全衛生法違反の疑いで書類送検しました。
解体工事現場は、粉じん対策の散水による多湿化や保護具の密閉性などにより、熱中症のリスクが高くなりやすい環境です。そのため、現場での徹底した安全管理が求められます。
本記事では、今回の事故がなぜ書類送検に至ったのか、法改正の背景や解体現場特有の熱中症リスク、そして施主が安全な業者を見極めるためのポイントについて、専門的な視点からわかりやすく解説します。
- 鳥取県米子市で発生した解体作業員の熱中症死亡事故と書類送検の背景
- 改正労働安全衛生規則に基づく熱中症対策の義務化と「手順書」未作成の過失
- 散水による多湿化など、解体工事現場特有の過酷な環境と熱中症リスク
- 安全意識の高い優良な解体業者を施主が見極めるための4つのポイント
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ニュースの概要
- 発生場所:鳥取県米子市にある家屋の解体工事現場
- 報道日:2026年9月7日
- 事案:2026年8月、解体作業中の男性が熱中症で亡くなる事故が発生しました。この事故を受け、労働基準監督署は9月7日、元請けと下請けの解体業者2社を労働安全衛生法違反の疑いで書類送検しました。
鳥取県米子市で家屋の解体をしていた男性作業員(40代)が熱中症で死亡したことを受け、重症化を防ぐ措置をとっていなかったとして解体工事業者2社が書類送検されました。
引用:工事作業員が熱中症で死亡 “対策とらず”業者2社書類送検 鳥取・米子市|テレ朝NEWS
鳥取・解体現場での熱中症死亡事故はなぜ書類送検に至ったのか
今回書類送検されたのは、現場を管理する元請け業者と、亡くなった作業員を直接雇用していた下請け業者の2社です。
書類送検の理由は、「現場の安全管理が不足していた実態」にあると考えられます。
捜査の結果、事故のあった現場では熱中症を防ぐための適切な対策が取られていなかったことがわかりました。特に問題視されたのは、緊急時のルールが用意されていなかった点です。
事故当時の現場付近は「気温36.6度」と過酷な暑さでした。熱中症が重症化すると、意識障害などの症状が現れる場合があります。そのため、本人の自覚だけに頼らず、周囲が体調の変化に気づいて対応することが重要です。しかし、この現場にはそれがありませんでした。
熱中症対策の義務化と「手順書」未作成の過失
今回の書類送検の背景には、2025年6月に施行された「改正労働安全衛生規則」があります。熱中症による事故を防ぐため、厚生労働省はこれまでの「努力義務」から、罰則を伴う「義務化」へとルールを厳しくしました。
この改正により、一定の暑さになる環境で作業を行う場合、業者には以下の3つが義務付けられています。
| 義務付けられた3つの柱 | 具体的な内容 |
| 1. 報告体制の整備 | 体調不良者が出た際、すぐに管理責任者へ報告できる連絡先や担当者を決めておくこと。 |
| 2. 手順書の作成 | 緊急時の連絡網や搬送先の病院、身体の冷やし方などをまとめた「手順書」を作ること。 <手順書の参考例:令和8年度熱中症対策マニュアル周知会開催-舗装工事|株式会社佐々木建設> |
| 3. 関係者への周知 | 作成した体制や手順書を、下請けを含む現場の全員にしっかりと伝えること。 |
捜査の結果、下請け業者は熱中症対策の「手順書」を作成しておらず、元請け業者もその不備を見過ごし、現場へのルール周知を怠っていたことがわかりました。
元請け・下請けの双方が自身の果たすべき安全管理の責任を果たさなかったことが、重大な過失として問われたと考えられます。
出典:労働安全衛生規則
(熱中症を生ずるおそれのある作業)
引用:労働安全衛生規則|e-Gov法令検索
第六百十二条の二 事業者は、暑熱な場所において連続して行われる作業等熱中症を生ずるおそれのある作業を行うときは、あらかじめ、当該作業に従事する作業従事者が熱中症の自覚症状を有する場合又は当該作業に従事する作業従事者に熱中症が生じた疑いがあることを当該作業に従事する他の作業従事者が発見した場合にその旨の報告をさせる体制を整備し、当該作業に従事する作業従事者に対し、当該体制を周知させなければならない。
2 事業者は、暑熱な場所において連続して行われる作業等熱中症を生ずるおそれのある作業を行うときは、あらかじめ、作業場ごとに、当該作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じて医師の診察又は処置を受けさせることその他熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置の内容及びその実施に関する手順を定め、当該作業に従事する作業従事者に対し、当該措置の内容及びその実施に関する手順を周知させなければならない。
解体工事特有の過酷な環境と「熱中症リスク」
実は、家屋などの「解体現場」は建設工事の中でも、熱中症のリスクが高くなりやすい環境です。
「粉じん対策の散水」が引き起こす高温多湿化

解体現場で熱中症リスクが高まる主な要因は、以下の3つです。
- 散水による急激な湿度の上昇
解体工事では大量の粉じんが発生するため、散水し飛散を抑えながら作業を行うのが一般的です。しかし猛暑日には、撒いた水がすぐに蒸発して現場が高温多湿状態になります。人間の体は汗の蒸発によって体温を調節しているため、湿度が高すぎるとその機能が働きにくくなり、体に熱がこもってしまいます。 - 防じんマスクや保護具による熱のこもり
粉じんを吸い込まないように、作業員は密閉性の高いマスクや保護具を身につけます。これにより顔や首から熱が逃げにくくなり、体温が上がりやすくなってしまいます。 - 重機内などの高温環境
重機の運転席など密閉された場所は、熱風の影響で高温になります。最近よく見かけるファン付きの空調ウェアも、粉じんが舞う現場ではフィルターが詰まったり熱風を吸い込んだりするため、万全ではありません。
運営者 稲垣このように、解体現場は「近隣への配慮(粉じん対策)」と「作業員の安全(熱中症対策)」が両立しにくく、他の現場以上に徹底した安全管理が求められます。
事故を防ぐために。施主が優良な解体業者を見極めるポイント
万が一依頼した現場で事故や法令違反が起きれば、工事の停止など施主にも影響が及びます。
現場の安全を守るのは業者の責任ですが、施主自身も「依頼先選び」の段階でリスクを減らせます。優良で安全意識の高い解体業者を見極めるためには、以下のポイントをチェックしてみてください。
| 業者選びのチェックポイント | 施主が確認すべき視点 |
| 無理のないスケジュールか | 極端に短い工期を提案してこないか確認しましょう。「早く終わらせます」という言葉の裏で、作業員に無理をさせている可能性があります。 |
| 見積もりに「安全対策の費用」が含まれているか | 夏場は、休憩所の設置や飲料水の用意など、作業員を守るための費用が適正に見積もられているか確認しましょう。極端に安い見積もりは、こうした安全管理を削っている可能性があります。 |
| 元請けとしての責任感があるか | 下請けに工事を「丸投げ」していないか確認しましょう。工事を依頼する前に、安全対策や現場の管理について質問し、具体的に答えてくれるかなどを踏まえて判断しましょう。 |
| コンプライアンス遵守の意識はあるか | 現在、解体工事前のアスベスト調査と報告が義務化されています。こうした法令を遵守し、施主に分かりやすく説明してくれるかどうかで、その業者のコンプライアンス意識の高さを確認できます。 |
運営者 稲垣見積書に安全対策に関する記載がない場合は、「熱中症対策や作業員の休憩環境はどうなっていますか?」と直接質問してみてください。その回答の具体性が、業者の安全意識を測る重要な判断材料になります。
まとめ
今回の事故の背景には、法令で義務化された熱中症対策が怠られていたことに加え、解体現場ならではの以下のような環境要因が考えられます。
・粉じんの飛散を防ぐための散水による、現場の急激な湿度上昇
・防じんマスクや保護具の着用による、体への熱のこもり
・密閉された重機の運転席などにおける高温化
・体調不良時の報告体制や緊急時の救護手順の未整備
解体現場における安全管理の欠如は、作業員の命に関わる重大な問題であると同時に、万が一事故が発生すれば工事の停止など施主にも影響が及びます。
工事を依頼する際は、単なる費用面の安さだけでなく、無理のない工期設定や安全対策への配慮がなされているかを確認することが大切です。現場で働く人々の安全を第一に考える姿勢こそが、優良で信頼できる解体業者を見極めるための重要な基準となります。
優良業者の選び方については以下の記事で詳しく解説しています。よろしければあわせてご覧ください。

