この記事の案内人・編集長
稲垣 瑞稀
静岡県沼津市で、無許可による大規模な盛り土が行われていた事案が公表されました。発生した土量は約2万6,000m3にのぼり、行政による是正指導が行われたものの、従われなかったことから事業者名の公表に至っています。
本記事では、今回の事案の概要に加え、違法盛り土がなぜ発生してしまうのかという背景や地盤への影響などを専門的な視点から解説します。
- 静岡県沼津市で発生した無許可盛り土事案の概要と、行政による公表に至るまでの経緯がわかる
- 違法盛り土が発生する背景と地盤・防災面へのリスクがわかる
- 関連する法規制と、行政代執行・刑事罰・民事責任など事業者に科される可能性のある措置がわかる
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ニュースの概要
- 発生場所:静岡県沼津市
- 報道日:2026年5月15日
- 公表された業者:有限会社西沢田橋本産業
- 事案:沼津市は盛土等規制条例に基づき、無許可で土砂の埋立てを行っていた有限会社西沢田橋本産業の事実を公表した。同社は市内足高字尾上の約1haの土地において、約2万6,000m3の土砂を搬入し埋立てを実施していたとされる。市は中止・原状回復命令を出したが従わなかったため、公表に至った。
- 事実
次に掲げる事業主は、沼津市盛土等の規制に関する条例(以下 「条例」という。)第 10条に規定する許可を受けずに土砂等により土地の埋立て等を施行した。この事業主に対し、条例第 26 条の規定に基づく土地の埋立て等の中止を命じ、条例第 27 条の規定に基づく原状回復等を命じたが従わなかった。
よって、条例第 31 条の規定により、ここにその事実を公表するものである。- 事実を公表する事業主の名称等
(事業を施行する権利を有する者)
所在 沼津市西沢田 596 番地の2
名称 有限会社 西沢田橋本産業 代表取締役 遠藤高史
盛り土とは土砂を搬入して地盤をかさ上げし、土地を造成する工事のことです。住宅地・道路・駐車場・農地などの整備に伴って行われることが多く、傾斜地に建物を建てる際や低い土地の高さを周囲に合わせる際などに用いられます。
大量の土砂を積み重ねて人工的に地形を変えるため、適切な設計や排水対策が不十分な場合には地盤の不安定化を招くおそれがあります。特に豪雨時には崩落や土砂流出などの災害につながる危険性も指摘されています。
違法盛り土に至った背景を考察
今回の事案について、沼津市の公表資料では盛り土の具体的な目的までは明らかにされていません。
そこで、一般的に無許可の盛り土が発生する理由をもとに今回の事案で考えられる背景を考察していきます。
背景1:残土処分コストを背景とした問題
今回の事案では約2万6,000m3という大量の土砂が搬入されていたことから、他の建設工事で発生した建設発生土が持ち込まれていた可能性が考えられます。その背景の一つとして、残土処分にかかる高額なコストが挙げられます。
建設工事や解体工事では大量の残土や建設発生土が発生します。これらは本来、許可を受けた処分場へ運搬し、適切に処理しなければなりません。しかし処分には運搬費・受入費・中間処理費などが発生するため、土量が増えるほど事業者側の負担も大きくなります。
特に近年は処分場不足や燃料費・人件費の上昇によって残土処理費用が高騰しており、コスト圧縮を目的に不適切な埋立てが行われるケースが問題視されています。適正処理よりも安価に済む違法搬入先が利用されることで、不法盛り土につながる構造が生まれています。
運営者 稲垣仮に静岡県が公表している残土処分単価を参考に、1m3あたり約6,200円で正規処分した場合、処分費だけでも1億円を超える規模になります。さらに運搬費・人件費・燃料費なども加わるため、総額では数億円規模になる可能性があります。
背景2:工期短縮や事業スケジュールを優先した判断
違法盛り土が発生する背景には、工期短縮や事業スケジュールを優先した判断があることも考えられます。
造成工事では、自治体への許可申請・地盤調査・排水計画の作成・擁壁の設置などに時間がかかります。そのため土地活用や工事全体の工程を優先し、必要な手続きが十分に行われないまま造成が進められてしまうケースもあると考えられます。
運営者 稲垣大規模な盛り土工事では設計変更や行政協議などによって工程が長期化することもあります。そのため採算性を重視するあまり、施工を優先して造成が進められてしまう可能性があります。
違法盛り土による地盤への影響
不適切に盛り土が行われた場合、降雨時には表層部分から崩れが連鎖的に進行し、滑動崩落や土砂の流動化といった形で被害が拡大する可能性が指摘されています。実際に2021年に発生した熱海市伊豆山の土石流災害では不適切な盛り土に雨水が浸透したことで土砂が崩壊・流出し、約2kmにわたり下流域の住宅地へ到達しました。これにより甚大な人的・物的被害が生じています。
出典:Yahoo!ニュース
静岡県熱海市の大規模土石流は、3日で発生から4年となった。不適切な盛り土が崩れて土砂が約2キロ下まで流れ、「人災」と指摘されるが、原因に関する法的判断に決着がつかない。県警の捜査は続き、遺族らが起こした訴訟は被告の会社と行政が責任をなすり付け合う事態に。裁判は来年度中の判決言い渡しが見込まれるが、審理は平行線。遺族らは取り残されている。
また、足高地区が位置する愛鷹山麓一帯は火山灰由来のローム層が広く分布しており、水分を含むことで地盤の強度が低下しやすいという地質的な特徴があります。そのため盛り土によって地形が改変されると雨水の排水がうまくいかなくなったり、地盤の状態にばらつきが生じたりすることで降雨時に地盤全体の安定性が損なわれやすくなる傾向があります。

こうした状況は周辺住民の生命・身体の安全だけでなく、住宅やインフラといった生活基盤にも長期的な影響を及ぼすおそれがあり、継続的な監視と早急な是正対応が求められています。
有限会社西沢田橋本産業に課される可能性のある罰則
今回の事案では沼津市盛土等の規制に関する条例に基づき、無許可での埋立てと行政命令への不履行が公表されています。
これを踏まえると、刑事上は法人に対して最大3億円規模の罰金、代表者個人に対しては最大5年以下の拘禁刑などが科される可能性があります。また、行政代執行が実施された場合には撤去や是正に要する費用が事業者へ全額請求され、場合によっては数億円規模に及ぶこともあります。
行政上の措置
行政対応としては、すでに条例第31条に基づく事実の公表が行われており、事業者名や違反内容が明らかにされることで社会的信用や事業活動に大きな影響を及ぼす措置となっています。
さらに是正が行われない場合には行政代執行法に基づき、市が盛り土の撤去や安全確保のための工事を実施し、その費用を事業者へ請求する可能性があります。規模によっては数億円規模に及ぶこともあります。
出典:沼津市盛土等の規制に関する条例、行政代執行法
第31条 市長は、第24条、第26条、第27条又は第28条第3項の規定による命令に従わなかった者について、その事実を公表するものとする。
第二条 法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)により直接に命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為(他人が代つてなすことのできる行為に限る。)について義務者がこれを履行しない場合、他の手段によつてその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる。
刑事責任
刑事面では、盛土規制法・沼津市条例・廃棄物処理法といった複数の法令が関係する可能性があります。
- 盛土規制法(宅地造成及び特定盛土等規制法)
盛土規制法では無許可での造成や是正命令違反が認定された場合、行為者である代表者など個人に対しては3年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金が科される可能性があり、法人に対しては最大3億円以下の罰金という重い両罰規定が設けられています。 - 沼津市盛土等の規制に関する条例
沼津市の条例違反についても刑事罰が定められており、命令違反が認定された場合には2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科される可能性があります。 - 廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)
搬入された土砂の中に廃材やコンクリート片など産業廃棄物に該当する物が含まれていた場合には、廃棄物処理法違反としてより厳しい罰則が適用される可能性があります。この場合、個人には5年以下の懲役または1,000万円以下の罰金、法人には最大3億円以下の罰金が科されることがあります。
出典:盛土規制法、沼津市盛土等の規制に関する条例、廃棄物処理法
第五十五条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、三年以下の拘禁刑又は千万円以下の罰金に処する。
一 第十二条第一項又は第十六条第一項の規定に違反して、宅地造成、特定盛土等又は土石の堆積に関する工事をしたとき。
(中略)
第六十条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。
一 第五十五条 三億円以下の罰金刑
第33条 次の各号のいずれかに該当する者は、2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処する。
(1) 第10条第1項、第13条第1項又は第15条第1項の規定に違反して事業を行った者
第二十五条 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の拘禁刑若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
十四 第十六条の規定に違反して、廃棄物を捨てた者
(中略)
第三十二条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。
一 第二十五条第一項第一号から第四号まで、第十二号、第十四号若しくは第十五号又は第二項 三億円以下の罰金刑
民事責任
民事上は民法709条に基づく不法行為責任が中心となり、被害を受けた住民や土地所有者から損害賠償請求が行われる可能性があります。
具体的には土砂の流出による住宅や敷地の損傷、擁壁・農地などの復旧費用に加え、周辺環境の変化による不動産価値の低下なども損害として評価される場合があります。被害の範囲や規模によっては賠償額が高額化する可能性もあります。
出典:民法
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
引用:民法|e-Gov法令検索
まとめ:違法盛り土問題の解決に向けて
運営者 稲垣違法盛り土の問題は「残土処分にかかるコストの高さ」だけでなく、「行政対応上の実務的な限界」といった要因が重なり合うことで解消されにくい構造になっていると考えられます。
違法盛り土が発覚した場合には行政から是正命令が出されますが、事業者が資金不足などを理由に対応できず、そのまま事業停止や倒産に至るケースもあります。この場合は原状回復そのものが進まず、問題が長期化する要因となります。
そのため事後対応に依存するのではなく、発生段階での規制強化や監視体制の充実に加え、発生土の適正な流通管理を徹底することで違法行為そのものを未然に防ぐ仕組みづくりが重要です。
