この記事の案内人・編集長
稲垣 瑞稀
2025年11月に本サイトでお伝えした「JR東日本の185系アスベスト混入売却」の問題が新たな局面を迎えました。長野労働基準監督署が、法人としてのJR東日本と現場責任者を書類送検したという報道があったためです。
前回は社内調査が中心でしたが、今回は「刑事手続き」に進んだ点が決定的に異なります。なぜ行政指導にとどまらなかったのか、その背景を専門家の視点から解説します。

- 2026年1月23日に行われた書類送検の概要と法的背景
- 労働安全衛生法第55条および施行令第16条が定める「0.1%基準」の考え方
- 2013年の厚生労働省による通達と、違反が繰り返された経緯
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ニュースの概要
- 発生場所:JR東日本 長野総合車両センター(長野市)
- 報道日:2026年2月11日
- 対象:JR東日本(法人)および長野総合車両センター所長
- 事案:鉄道車両の電気暖房器を鉄くず(有価物)として売却。その後、基準値(重量の0.1%)を超えるアスベストが含まれていたことが判明した。
- 処分の内容:長野労働基準監督署は、法人としてのJR東日本および同センター所長(50代男性)を労働安全衛生法違反の疑いで長野地検に書類送検。
JR東日本が鉄くずとして売却した鉄道車両の電気暖房器に基準(重量の0.1%)超のアスベスト(石綿)が含まれていたことが後に判明し、労働安全衛生法(安衛法)違反の疑いで書類送検された。鉄道各社で類似事案が繰り返されるなか、初めてのことだ。
引用:JR東日本のアスベスト含有製品売却めぐる書類送検 計4回法違反も“忘却” 長野労基「最高罰の違反繰り返した」|Yahoo!ニュース
運営者 稲垣この「重量の0.1%」という数値は、労働安全衛生法施行令第16条に基づく厳格な基準です。現在の日本の法令では、微量であってもこの基準を超えていれば「アスベスト含有製品」と定義され、厳しい規制の対象となります。
出典:労働安全衛生法施行令
第十六条 法第五十五条の政令で定める物は、次のとおりとする。
(中略)
四 石綿(次に掲げる物で厚生労働省令で定めるものを除く。)
イ 石綿の分析のための試料の用に供される石綿
ロ 石綿の使用状況の調査に関する知識又は技能の習得のための教育の用に供される石綿
ハ イ又はロに掲げる物の原料又は材料として使用される石綿
(中略)
九 第二号、第三号若しくは第五号から第七号までに掲げる物をその重量の一パーセントを超えて含有し、又は第四号に掲げる物をその重量の〇・一パーセントを超えて含有する製剤その他の物
今回の書類送検における適用条文
適用されたのは、労働安全衛生法第55条です。この条文では、アスベストなどの有害物質を「製造・輸入・譲渡・提供・使用」することを原則として禁止しています。違反した場合は、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金が規定されています。
出典:労働安全衛生法
第五十五条 黄りんマツチ、ベンジジン、ベンジジンを含有する製剤その他の労働者に重度の健康障害を生ずる物で、政令で定めるものは、製造し、輸入し、譲渡し、提供し、又は使用してはならない。ただし、試験研究のため製造し、輸入し、又は使用する場合で、政令で定める要件に該当するときは、この限りでない。
今回問題とされたのは、アスベストを含む可能性のある機器を鉄くずとして売却した点です。第55条では「譲渡」も禁止行為に含まれるため、この売却行為が違反にあたる疑いがあるとして書類送検に至りました。
同様の違反が繰り返された背景
長野労働基準監督署が「最高罰の違反を繰り返した」と厳しく指摘する背景には、同社で過去に3回、同様の法令違反が発生していた事実があります。
2013年には当時の相次ぐ違反を受け、厚生労働省から鉄道業界全体へ「石綿付着の鉄道車両のスクラップの譲渡又は提供の禁止の徹底について(基安化発0812第1号)」という通達が出されていました。この通達では、以下の義務が明確に示されていました。
- 石綿障害予防規則第3条に基づく事前調査: 図面情報の確認だけでなく、不明確な場合はメーカー照会や「分析調査」を徹底すること。
- 手バラシによる除去: アスベスト含有部品は破砕せず、手作業で取り除くこと。
今回の事案では、この通達によって示されていた「分析調査」を怠り、不正確な図面データを鵜呑みにしたことが石綿障害予防規則第3条の不履行にあたると判断されたと考えられます。
出典:石綿障害予防規則
第三条 事業者は、建築物、工作物又は船舶(鋼製の船舶に限る。以下同じ。)の解体又は改修(封じ込め又は囲い込みを含む。)の作業(以下「解体等の作業」という。)を行うときは、石綿による労働者の健康障害を防止するため、あらかじめ、当該建築物、工作物又は船舶(それぞれ解体等の作業に係る部分に限る。以下「解体等対象建築物等」という。)について、石綿等の使用の有無を調査しなければならない。
「譲渡」が問題となる理由
アスベストを含む製品を自社内で扱う場合は、適切な防護措置を講じることでリスクを制御できます。しかし外部へ「譲渡(売却)」する行為は、リスクを社会全体へ拡散させることを意味します。
鉄くずとして買い取った業者がアスベストの存在を知らずに機械で破砕・切断を行えば、作業員がアスベストを吸入し、将来的に中皮腫などの健康被害を引き起こす恐れがあります。JR東日本の行為は自社の管理コスト削減のために、こうしたリスクをスクラップ業者へ転嫁したと評価されます。
○ 石綿による健康被害とは?
・ 石綿により、仕事中に接触した労働者だけでなく、労働者が持ち帰った作業着等に付いた石綿を吸い込んだ家族なども病気になることがあります。
・ 石綿による病気には、中皮腫や肺がん等があり、非常に長い期間が経ってから発症すること、どのような状況で石綿を吸い込んだのか明らかにすることが難しいこと等の特徴があります。
今後求められる対策
今回の事案を踏まえると、老朽設備を扱う事業者には「担当者任せにしない仕組み」が求められます。解体の現場では、次のような考え方が重要になります。
- 「みなし含有」を前提に計画する:
築年数が古い設備や仕様変更履歴が不明な機器については、「含まれている可能性がある」と仮定して予算と工程を組むほうが、結果的にトラブルを防げます。 - 分析結果がなければ搬出できない仕組みをつくる:
現場では、工程が迫ると判断が曖昧になることがあります。システム上、分析結果の登録がなければ売却・搬出できないようにしておくことが実務上有効です。 - 調査費用をあらかじめ計上する:
発注段階で調査費用が確保されていないと確認が後回しになりがちです。解体業者側でも必要な調査は提案し、契約に組み込むことが重要です。
まとめ:図面だけに頼らない確認体制の重要性
解体工事の現場では、「図面にないから大丈夫」という判断が通用しない場面があります。現物確認と分析調査という基本動作をどこまで徹底できるかが、リスク管理の分かれ目になります。
運営者 稲垣設備の老朽化が進む中で、「図面と実物の不一致」や「過去の仕様変更が把握しきれていないといった状況」はどの現場でも起こり得ます。今回の事案は確認の手順を改めて点検する必要性を示したと言えるでしょう。
アスベストの調査や法規制の考え方については、別の記事でも詳しく解説しています。あわせてご覧になってください。

