この記事の案内人・編集長
稲垣 瑞稀
1995年の阪神淡路大震災から30年以上が経過した現在、当時の復旧・復興作業に従事した労働者の健康被害が確認されています。アスベスト(石綿)に関連する疾患は潜伏期間が非常に長いことが特徴であり、震災当時の作業が現在の健康リスクとして顕在化しています。
この記事では最新の労災認定事案の概要とともに、当時の作業環境や法規制の変遷、そして今後の課題について解説します。
- 阪神淡路大震災後の解体工事に関する労災認定事案の概要がわかる
- アスベストの特徴と健康リスクがわかる
- 震災当時の作業環境の実態と現在の法規制、今後の解体工事で求められる対策がわかる
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ニュースの概要
- 発生場所:兵庫県神戸市
- 報道日:2026年3月2日
- 対象:兵庫県南あわじ市在住の登日廣幸氏(55歳)。
- 事案:阪神淡路大震災後の解体工事でアスベストを吸い込み、希少がんである「胸膜中皮腫」を発症したとして、登日氏は労働基準監督署から労災認定を受けた。登日氏は1997年、神戸市灘区などで倒壊したビルの解体作業に従事していた。
阪神淡路大震災後の工事でアスベストを吸い込み、がんを発症したとして、兵庫県の男性が新たに労災認定されました。
南あわじ市の登日廣幸さん(55)は震災2年後の1997年に、神戸市灘区などで倒壊したビルの解体工事に従事しました。
登日さんは去年、希少がんの胸膜中皮腫と診断され、解体現場で吸い込んだアスベストが原因だとして、労基署から労災認定を受けました。阪神淡路大震災関連のアスベストが原因で労災認定を受けた人は、確認されているだけで9人目です。
アスベストとは?
アスベストは、天然に産出する繊維状の鉱物です。耐熱性・耐薬品性・絶縁性などの優れた特性を持ち、安価であったことから建築材料や工業製品に広く使用されてきました。
アスベストの危険性
アスベストのリスクは、その極めて細い繊維にあります。肉眼では見えないほど微細な繊維を吸い込むと、肺の奥深くまで到達し、生涯にわたって肺胞や胸膜に残り続けます。これにより、「肺がん」や肺を包む膜にできる希少がん「中皮腫」、肺が硬くなる「石綿肺」など、深刻な健康被害を引き起こす可能性があります。
▼アスベスト小体

こうした疾患の大きな特徴は、発症までに一般的に15年から50年という長い潜伏期間があることです。登日氏は、解体作業に従事した1997年から28年後にあたる2025年に「胸膜中皮腫」と診断されていることから、当時の作業環境が長期的な健康リスクとなっていたことがわかります。
なお、アスベストについては以下の記事で詳しくご紹介しています。あわせてご覧になってください。

アスベストの吸い込みに至った当時の背景
1995年の震災直後、街の再建に向けて約12万件以上の建物解体が行われました。これは倒壊した建物が道路を塞ぎ、救急活動や生活再建を妨げていたためです。また、余震による二次被害を防ぎ、安全な街づくりを急ぐ必要がありました。
こうした緊急性を支える制度として「公費解体制度」が導入されました。本来は建物所有者が負担する解体費用を特例として国や自治体が負担する仕組みで、膨大な数の危険な建物を速やかに撤去して復興を加速させることが目的でした。
しかし当時は作業環境に課題もありました。膨大な件数を短期間で処理する必要があったため、粉塵抑制や作業場所の隔離など安全対策が不十分なまま進められるケースが多く、1970~80年代建設のアスベスト含有建材が破砕されることで高濃度の粉塵が発生しました。さらに、防塵マスクなど保護具も十分でない状況で作業が行われていました。
運営者 稲垣震災後、環境省(当時は環境庁)の調査で、解体現場の敷地境界付近の空気から1Lあたり最大19.9本のアスベスト(クリソタイル)が検出されました。これは当時の基準(10本/L)のほぼ2倍にあたり、作業者の周囲ではさらに高濃度のアスベストが飛散していたことを示しています。
なお、公費解体制度については以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご参考になさってください。

アスベスト規制の改善:1995年当時と現行法の比較
震災当時の教訓を経て、現在のアスベスト規制は大幅に強化・改善されています。かつては「法的な抜け穴」や「業者の判断任せ」になっていたグレーゾーンが解消され、周囲の安全を守るための厳格な仕組みが整えられました。
| 比較項目 | 1995年(震災当時)の規制 | 2026年3月時点の規制 | 改善のポイント |
|---|---|---|---|
| 事前調査 | 元請業者の判断(資格不要) | 有資格者による調査と報告が義務 | 主観的判断ではなく、専門家による客観的確認を義務化 |
| 規制対象 | 主に飛散しやすい吹付けアスベスト | 壁材・床材などを含むほぼ全ての建材 | かつて「非飛散性」とされた建材も対象に拡大 |
| アスベスト含有の定義 | 重量の5.0%超 | 重量の0.1%超 | 基準を50倍厳格化し、微量な含有も管理対象に |
| 罰則規定 | 改善命令が中心 | 違反に対する懲役・罰金 | 行政指導中心から、法的拘束力のある制度へ強化 |
2026年3月現在の主な規制条文を表示する
第三条 4 事業者は、事前調査については、前項各号に規定する場合を除き、適切に当該調査を実施するために必要な知識を有する者として厚生労働大臣が定めるものに行わせなければならない。ただし、石綿等が使用されているおそれが高いものとして厚生労働大臣が定める工作物以外の工作物の解体等の作業に係る事前調査については、塗料その他の石綿等が使用されているおそれがある材料の除去等の作業に係るものに限る。
第二条 10 この法律において「特定粉じん発生施設」とは、工場又は事業場に設置される施設で特定粉じんを発生し、及び排出し、又は飛散させるもののうち、その施設から排出され、又は飛散する特定粉じんが大気の汚染の原因となるもので政令で定めるものをいう。
第十六条 九 第二号、第三号若しくは第五号から第七号までに掲げる物をその重量の一パーセントを超えて含有し、又は第四号に掲げる物をその重量の〇・一パーセントを超えて含有する製剤その他の物
第三十三条 第九条、第九条の二、第十四条第一項若しくは第三項、第十七条の八、第十七条の十一、第十八条の八、第十八条の十一、第十八条の三十一又は第十八条の三十四第二項の規定による命令に違反した場合には、当該違反行為をした者は、一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。
かつては、アスベスト含有の可能性があっても規制対象外とされるケースがあり、また調査や対策が事業者の判断に委ねられていました。その結果、コストや工期が優先され、十分な対策が取られないまま工事が進められることもありました。
しかし現在は、「建築物石綿含有建材調査者」などの専門家による客観的な事前調査が義務付けられ、その結果を自治体へ報告する仕組みが整備されています。さらに規制対象の拡大や罰則の強化により、アスベスト対策は事業者の裁量に委ねるものではなく、法令に基づいて確実に実施すべき義務として明確化されました。
まとめ:これからの解体工事に求められること
今回の労災認定は、30年以上前のアスベスト曝露が長い年月を経て健康被害として現れた事例です。アスベストによる被害は、今後2028年から2030年頃に発症のピークを迎えるとされる「2030年問題」として懸念されています。
こうした悲劇を繰り返さないために、解体工事を検討している方は次のポイントを押さえることが重要です。
- 法に基づいた事前調査の徹底:有資格者による調査を実施し、アスベストの有無を正確に把握する。
- 周囲の安全確保:調査結果に基づいて適切な工法を選定し、作業員や周辺住民の健康を守る。
運営者 稲垣アスベストの飛散は適切な調査と除去を行うことで防げます。制度が整備された今だからこそ、法令を遵守し、安全を最優先にした解体工事を進める姿勢が求められています。
